ケバブ錯視

 ケバブ錯視という錯視を発表しました。





 この錯視はラインモーションという運動錯視を利用した物体の位置ズレ錯視という二重構造の錯視になっています。まずはラインモーションを解説しましょう。ラインモーションは彦坂博士ら(Vision Research,1993)によって発見された運動錯視です。



ラインモーションの時間スケジュール


 ラインモーションは、上のような時間スケジュールで構成されています。Pre-cueと呼ばれるドットがまず提示され、Pre-cueはすぐに消失します。その後、一定の空白時間をおいて、Lineが提示されます。この繰り返しです。とても単純な視覚刺激ですが、非常に強力なモーション知覚を誘導することができます(下のGIFアニメ)。


 提示されたLine上に運動を知覚できるかと思います。Lineは右も左も関係なく同時に提示されたにも関わらず、Pre-cueからLineが伸びていったように知覚されます。これがラインモーションです。


Line-motion effect

 ケバブ錯視では、このラインモーションのPre-cueとLineの位置関係を問題にしました。ケバブ錯視は新型の視覚刺激ではありません。ラインモーションそのものの視覚刺激の観察ポイントを変えてみただけです。運動知覚が強力に起こっていますので、そちらに注意が引き寄せられてしまいますが、その裏で起こっているPre-cueとLineの位置関係を問題にしたのです。

そうは言っても、ラインモーションのPre-cueとLineの位置関係を比較するのは中々困難です。そこでケバブ錯視では下のようなPre-cueの位置をずらしたり、Pre-cueの形を変えたりして位置関係を比較しやすいようにしました。



Kebab Illusion


 上の図ではPre-cueの位置をLineの上方にずらしています。Pre-cueの左端とLineの左端はそろえてあります。この位置関係で、下の図のような時間スケジュールで刺激を提示します。



Kebab Illusion

このような時間スケジュールでGIFアニメを作ると一番最初にお示ししたようなケバブ錯視になります(錯視には個人差もありますし、WEB上で再現できていない場合もあります。そのときはごめんなさいです)。




Kebab Illusion

 もし錯視がうまく見えた方は、上のような知覚になったかと思います。ただし、Pre-cueが運動方向にずれたのかLineが運動と逆方向にずれたのかは不明です(論理的に証明は不可能[と思われます])。いずれにしましても、ラインモーションが生じているとき、Pre-cueは相対的にLine運動側にずれていることになります。

 この錯視の特徴は、時間的にも空間的に分離された視覚オブジェクト(Pre-cue)の相対的位置が運動知覚方向へずれたことにあります。この錯視は空間仮説を支持する証拠のひとつになっていると考えています。

Watanabe, E., Matsunaga, W., and Kitaoka, A., Motion signals deflect relative positions of moving objects, Vision Research 50, 2381-2390 (2010) 

空間仮説及びその対抗仮説としての時間仮説については、次の記事にて。
『時間仮説と空間仮説』



追記(2010年12月8日):

 論文ではPre-cueはライン上に乗っていたので、錯視が成立すると串刺し状態になり、ケバブ錯視と呼びました。ところが、上のGIFアニメでは錯視を見やすくするために、あえてPre-cueとラインの位置をずらしましたのであえて、ケバブ錯視(串刺し錯視)なのに串刺しになっていません。まことにすみませんが、仮想上の垂直線を串刺ししているということで、ご勘弁を。

追記(2010年12月13日):

北岡先生に、『団子串刺し』アニメとして作っていただきました。
http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/movie7.html

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