デルタモデル(錯視の予測説)


delta model

 デルタモデルは、私たちの視覚の情報処理機構を説明するための試案です。デルタモデルでは、高次中枢で合成されている予測信号と、感覚器由来の感覚信号の2種類の信号を想定します。予測信号は、感覚信号に対して『引き算』をされ、常に差分(デルタ)が計算されます。その差分は高次中枢の学習に使用されると同時に脳が活動するためのドライビングフォース(エネルギー源)とします。脳は、デルタ学習を続けることによって、より正確な予測信号を合成できるようになります。このような「考え方」は、小脳の運動制御メカニズムや、ドーパミン系の期待制御メカニズムなどにも見てとることができます。

 デルタモデルでは、運動信号による位置ズレのような錯視は、運動体の正確な位置予測(情報は過去未来の両方を使用)を行っているために生じていると考えます。

 また、デルタモデルの中核的なコンセプトとなる『引き算』は、運動残効(Motion Aftereffect)や図形残効(Figural Aftereffect)など、各種残効(アフターエフェクト)の説明にも適用することもできます。残効ではあたかも演算符号が逆転したかのような錯視効果が観察されます。大きな『差分』は注意を惹きつけるコアになっているかもしれません。

詳細は論文にて。

Watanabe, E., Matsunaga, W., and Kitaoka, A., Motion signals deflect relative positions of moving objects, Vision Research  50, 2381-2390 (2010) [pubmed]
https://www.researchgate.net/publication/46578016_Motion_signals_deflect_relative_positions_of_moving_objects

追記:
デルタモデルは、大脳視覚系に関しては予測符号化説(下記)と概念的に等価のものです。予測符号化の考え方を脳全体に汎用拡張したのがデルタモデルになります。上記2010年の論文では、デルタモデルあるいは予測符号化による錯視現象の説明を試みています。
Predictive coding in the visual cortex: a functional interpretation of some extra-classical receptive-field effects
Rajesh P. N. Rao & Dana H. Ballard
Nature Neuroscience, volume 2, pages 79–87 (1999)

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